イスラエルの量子ソフトウェア企業 Classiqは、Amazon Braketと共同で、2023年7月18日(火)に量子ソフトウェアイベントをMIRAI LAB PALETTE(大手町)にて開催しました。Quantum Business Magazineでもイベントに参加してきましたので、イベントレポートをお届けします。イベントの趣旨は、量子業界の第一線でご活躍されているゲストによる量子回路の開発・設計についてトークセミナーと、Classiqのプラットフォームを活用して量子回路を設計し、Amazon Braketを介してハードウェア上で実行するハンズオンワークショップ開催となっています。
企業概要およびサービス概要、顧客実例など
Classiq社はイスラエルに本社があり、今回は日本支社設立記念のハンズオンとなっています。事業内容は、量子ゲートのOS、コンパイラ、IDEを総合的に開発しているとのことです。三年半前に設立して従業員数が65人。今回は東京にオフィスを設立し、日本からは住友商事やNTTファイナンスなどが出資を通じてClassiq社の株主となっているとのことです。
Classiqのサービスの特徴は、通常の量子コンピュータのプログラミングは量子ゲートレベルでブロックを多数配置する必要がありますが、Classiqでは最初に目的を決めることでプログラムの作成を自動化して実行できるものを提供していることです。開発環境はハードウェアに対して中立なので、どのようなハードウェアやシミュレータなどでも実行できるのも特徴です。多くのアプリケーションの作り方はデータベースに保存されており、ユーザーはさまざまなものを選ぶことができるということです。実際にHHLアルゴリズムと呼ばれるアプリケーションの自動生成を例に取りデモンストレーションされていました。
最近の顧客事例としてロールスロイスとの協業が紹介されました。HHLアルゴリズムでの流体計算を39量子ビットで10,000,000 量子ゲートで実行されたとのことです。また、日本からも東芝デジタルソリューションズとの協業が紹介されました。また、KPMGとClassiqの協業の事例も紹介されました。同様のパートナーシップをNTTデータとも締結しているようです。次にHPEと量子を組み込んだスタックの開発の事例についても紹介され様々なレイヤーで事業を行っていることが紹介されました。大学や研究所とは300校近くと取り組んでいると紹介されており、多くの教育の現場で利用されていることが紹介されました。
ゲストによるトークセッション
続いて慶応義塾大学の山本直樹教授とAWS針原佳貴氏によるトークセッションが開催されました。山本教授からは量子コンピュータのアプリケーション開発の現場から、実際の金融や材料開発のアプリケーション構築において回路の最適化には非常に多くの知識やリソースが必要であり、Classiqのようなサービスが現場においても非常に重要で、期待感が高いという話をされました。針原氏からはAWSの提供する量子コンピューティングサービスのAmazon Braketの概要が紹介され、研究における取り組みや量子コンピュータの詳細な機能が説明されました。AWSではSDKとよばれるソフトウェア開発キットを通じて様々なハードウェアで実行できる旨が紹介されました。Classiq社もAWSのパートナー企業として取り組んでいる旨が紹介されました。
ハンズオン
後半はハンズオンが行われました。ハンズオンではそれぞれのアカウントを使ってログインを行い実行を行い、実際にClassiq社のサービスを体験しました。
左上の「SYNTHESIS」ボタンを押すことで量子回路の作成を開始することができます。通常の量子コンピュータのプログラミングは量子回路と呼ばれるものを作るところからスタートしますが、Classiqのサービスでは条件を決めるところから開始し、今回はState Preparationと呼ばれる量子回路を実行するチュートリアルを行いました。
今回は特定の確率を作るための量子回路を条件から作成します。右下の「Synthesize」ボタンを押すことで量子回路が作成できます。
量子回路が作成されました。作成された量子回路の情報を確認できます。深さや量子ビット数、利用されている量子ゲートの種類や数が表示されます。量子回路の中身はブロックとしてまとめられており、+ボタンを押すことで中身を見ることもできます。
そして、量子回路の情報を確認できたら、右下の「Execute」ボタンを押すことで作った量子回路を実行できる状態に移行できます。
EXECUTIONの画面に移行すると、実行する量子回路を選び、実際に利用する量子コンピュータやシミュレータの指定になります。今回はAmazon Braketのサービスを利用します。SV1というシミュレータが利用可能でしたので、それを選びました。右側では1回に実行するショット数やその他の条件を決められます。これらを決めましたら「Run」ボタンで実行となります。
実行に関してエラーが発生しなければAmazon Braketにジョブが送られます。今回作った量子回路の実行結果がグラフ形式で確認できました。このように、通常は手作業で作る量子回路を量子ゲートを触らずに簡単に条件を作成し、実行できました。このようにClassiqのサービスでは専門的な知識を簡単に実行できる環境が揃っています。
その他応用的な使い方として様々なチュートリアルが搭載されていることや、より高度な機能の紹介、Python SDKのインストール方法などが紹介され、Classiqのサービスのより詳細な紹介が行われました。
今回はClassiq社のハンズオンワークショップに参加させていただきました。量子回路を作るのには多くの専門的知識や難しい調整が必要ですが、このようなインターフェイスで手軽に量子回路やプロ顔負けの量子回路が作れるとなると教育・研究のみならず様々な場面で活躍しそうですね。また、難しい専門的な画面だけではなく、グラフィカルでカラフルなインターフェイスでとても見やすく、量子コンピュータに対して気軽に取り掛かれそうで、参入障壁も下がりそうですね。以上、イベントレポートでした。
参加者:湊雄一郎